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「ねぇねぇパパ~、あのさ~、なんでちんちんはきちゃないのに、きのうママはパパのちんちんをぺろぺろしてたのー!?」
よりによってバスはアイドリングストップ型であり、ちょうど信号待ちで車内がシーンとした瞬間の出来事だった。もはや誰も聞こえなかったふりなどできなかった。「空気が張り詰める 」という表現は比喩ではなく事実であると実感した瞬間だった。
と、父親は冷静に「おっ、スカイツリーだ!」と窓の外のスカイツリーを指差した。どうやら注意逸らし作戦を遂行するようだった。
男の子は「ほんとだー!!!!」と歓声を上げ、無事ミッションは成功したようだった。とたんに車内の空気がほぐれ、思わずため息が漏れた。しかしそれは束の間の休息に過ぎなかった。
「すかいつりーってなにかちんちんみたいだね」
奴の思考はちんちんから離れてなどいなかったのだ。強引にちんちんの話題に引き戻した男の子は、まだ答えをもらえていない質問を再度父親に繰り返したのだった。
再び緊張感に包まれた周囲とは裏腹に、父親は変わらず冷静だった。「お!今度は都電荒 川線だ!」と、タイミング良く近くを通った路面電車に注意を向けた。
これは大成功だった。男の子は図鑑で見たのと一緒だと大興奮していた。その様子を見て、もう大丈夫だろうと乗客一同胸をなでおろした。
興奮した男の子は父親に得意気に語っていた。
子「ああいうでんしゃを『ちんちんでんしゃ』っていうんだよ。パパしってたー?」
父「しらなかったよ。よくそんなことしってるね」
子「なんかさー、ちんちんでんしゃって・・・『ちんちん』だってー!ぶふふふふ・・・・・・ねーなんでママはパパのちんちんぺろぺろしてたのー?」
父「今度はそうきたか」
最後の父親の冷静な一言に、乗客のにーちゃんが吹き出した。自分も限界だった。それを合図に車内中 で爆笑が起きた。
殺伐とした都会で起きた奇跡。妙な連帯感に包まれた、不思議な出来事だった。